岡山の日本酒といえば、何を思い浮かべますか?ぱっと出てくるのが、銘柄ではなく、酒米の「雄町」だという人もいるのではないでしょうか。
「山田錦」「五百万石」「美山錦」と並ぶ4大酒米のひとつであり、岡山県が誇る酒米「雄町」。そんな「雄町」で醸した岡山県の地酒を愉しめる期間限定の地酒イベント「岡山地酒BAR」と、イベントを開催するにあたって開かれたメディアセミナーの様子をレポートします。
新橋駅徒歩1分!会場は岡山県と鳥取県の合同アンテナショップ
「岡山地酒BAR」が開かれたのは、新橋駅・銀座口から正面の交差点を渡ってすぐにある、鳥取県・岡山県共同アンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」(東京都港区)です。
1階には、特産品や民工芸品を展示・販売するショップがあり、2階にはビストロカフェ「ももてなし家」や観光・移住コーナー、ビジネスセンターに、今回イベントが行われた催事スペースがあります。催事スペースでは、物産の製作実演や試食販売の他に、文化・芸能の公演、観光や移住に関するイベントなどが開催されているそうです。
「オマチスト」増えてます!知れば知るほど魅力あふれる酒米「雄町」
「岡山地酒BAR」のオープンに先立ち、「雄町」の魅力を伝えるためメディア向けセミナー『「雄町の特徴」と「雄町の地酒の楽しみ方」』が開講されました。セミナーの講師は、岡山県在住の日本酒ライター、SSI認定きき酒師・日本酒学講師の市田真紀さんです。
セミナーの冒頭は、「雄町」の注目度が高まっていることの説明からでした。今年の夏で第8回を迎えた「雄町サミット」には194点が出品され、8年前に開かれた第1回の65点よりも約3倍の出品点数になっていることや、「雄町」の歴史や味わいに共感するファン「オマチスト」が徐々に定着していることが、挙げられていました。
続いて酒米「雄町」の特徴について説明を受けました。
「雄町」は江戸時代末期の安政6年(1859年)に発見されて以来、栽培され続けている日本最古の混血の無い原生種です。粒が大きく心白が球状であるため酒造りに適しているといわれ、「山田錦」や「五百万石」をはじめとする現在の代表的な酒米のルーツにもなっています。
背丈は160cmを超えることもあり、そのせいで倒れやすく、また、病害虫に弱いことから栽培が難しく、昭和48年には作付面積が約3haまで落ち込み”幻の酒米”といわれるほどに生産量が激減したそう。しかし、岡山県内の酒造会社の要望により作付拡大の取り組みが開始され、平成27年には550ha程度まで回復したそうです。
現在では、岡山県の風土の特徴である、豊富な日照量と瀬戸内海沿岸特有の温暖な気候、河川のもたらす肥沃な土壌と水はけのよい砂壌土質から全生産量のうち約95%が岡山県産です。
さらにセミナーでは「雄町」で醸したお酒の具体的な特徴と、楽しみ方の例も紹介されました。
<特徴>
- ふくよかで円みのある旨味
- 幅のある複雑な味わい
- 深いコク、長い余韻
- 米の甘みと酸味との調和
- 熟成を経て開く旨味
- あらゆる料理と調和
- 熟成させて味が開く
<楽しみ方>
- 適度に熟成した「秋上がり」を味わう。
- 「冷や(常温)」で旨みと幅のある味わいを愉しむ。
- 「燗」でさらに膨らむ旨味を愉しむ。(ぬる燗~上燗:約40℃から45℃程度)
- 濃い味の料理とのハーモニーを愉しむ。
「雄町」で醸した地酒を、岡山県産おつまみとともに味わう
セミナーの後半には、「雄町」を使った地酒が、おすすめの料理とともに提供されました。
用意されたお酒は「喜平 純米吟醸 木桶仕込」(平喜酒造)・「酒一筋 時代おくれ 山廃純米吟醸」(利守酒造)(冷や/ぬる燗)。「喜平」は旨味と切れ味があり、あらゆるつまみに合い、「酒一筋」は独特な旨味と酸味があるという、対照的な二本を選んだとのことでした。
おつまみは岡山特産品の「牡蠣のアヒージョ」「蒜山(ひるぜん)ジャージー牛ゴーダチーズ」「岡山果物語(くだものがたり) 干しピオーネ」それに「「おかやま和牛肉ローストビーフ」。ピオーネとローストビーフは、市田さんがオススメする「酒一筋」のぬる燗(43℃)と合わせていただきました。
一見すると、日本酒と合わせるのは難しそうなおつまみなのですが、「喜平」とゴーダチーズは、酸のタッチが軽いためチーズの味を楽しめ、「酒一筋」とローストビーフは、ぬる燗で合わせることでどちらも旨味がしっかりと出るなど、「雄町」の持つポテンシャルを十分に感じられる食べ合わせでした。
酒器は岡山県の伝統工芸品「備前焼」。味がまろやかになる、保温性が高いとも言われ、日本酒との相性は抜群だそうです。
「岡山地酒BAR」では6蔵元40種類の岡山地酒を堪能
10月19日から21日に開催された「岡山地酒BAR」は、岡山県と岡山県酒造組合が「雄町」を使った地酒を、気軽に東京で愉しんでもらいたい、と企画されたものです。
参加したのは岡山県内の6つの蔵元。それぞれが「雄町」で醸した地酒を中心に、岡山県産の果実を使ったリキュールを含む40種類の地酒を提供しました。
◎参加蔵元
室町酒造株式会社(赤磐市)
創業元禄元年(1688年)。地元赤磐産の酒米「雄町」と日本の名水百選「雄町の冷泉」を仕込水に用いる「雄町」にこだわった酒造りを行っています。また、地元岡山県産のフルーツを使ったリキュールも製造しています。
代表銘柄は「櫻室町 極大吟醸 室町時代」「櫻室町 甘熟とろける清水白桃酒」。
利守酒造株式会社(赤磐市)
酒蔵のある"軽部"は、「雄町」の中でも特に良質の物が採れる地域として知られ、幻となっていた軽部産「雄町」の復活に立ち上がりました。利守酒造の説得により、農家や農協、農業試験所、行政が一体になり栽培を推進したそうです。復活させた軽部産「雄町」を「赤磐雄町米」と命名し、純米大吟醸「赤磐雄町」として世に出しました。
代表銘柄は「赤磐雄町」「酒一筋 純米吟醸(金麗)」。
平喜酒造株式会社(浅口市)
創業昭和3年(1928年)。新蔵も含めて、2万平米以上の敷地は県下でも有数の規模を誇ります。米は岡山の備前米「雄町」や「あけぼの」を使用し、蔵の北にある遥照山の花崗岩質に磨かれた水で仕込みを行っています。また、開かれた企業でありたいという思いから、随時工場見学を受け付けたり、地域の人々を招いて様々なイベントを開いたりしているそうです。
代表銘柄は「超特撰 喜平 大吟醸」「特撰 喜平 生貯蔵酒」。
丸本酒造株式会社(浅口市)
「美味しいお酒を作るには、優れた原料を確保しなければならない」との思いから、酒米の自家栽培を始めたのが昭和62年のこと。その後、平成15年より、市場のニーズにより有機的栽培を行い、国内外における有機栽培の認証を取得しました。
代表銘柄は「純米 農産酒蔵」「竹林 かろやかオーガニック」。
嘉美心酒造株式会社(浅口市)
創業大正2年(1913年)。瀬戸内海にある海辺の小さな町、寄島町にある渚の蔵です。酒名「嘉美心」は、2代目松三郎の「身も心も清らかにして御酒を醸したい」との願いから、「神心」と同音の言葉を選んだものと伝えられています。
代表銘柄は「嘉美心 純米大吟醸」「嘉美心 特別純米」。
有限会社田中酒造場(美作市)
中国山地の岡山・鳥取・兵庫の3県境に近い岡山県美作市大原地区で創業130年。寒冷な気候・清冷な地下水・豊かな米に恵まれた環境のもと、昔ながらの手作業で丁寧な酒造りを続ける小さな造り酒屋です。
代表銘柄は「武蔵の里 山廃酛仕込 純米酒」「武蔵の里 純米原酒」。
雄町にこだわった酒造りをしている室町酒造や、香りが少なく旨味に特化した酒造りをする田中酒造場、オーガニックにこだわりお米の自社栽培も行い農産酒蔵を名乗る丸本酒造など、大変魅力溢れる酒蔵が集まっていました。
”幻の酒米”から”岡山の誇り”へ
「雄町」には、原生種であることや、全国で使われている「雄町」のほぼ全てが岡山県産であることなど、他の酒米にはない特徴がたくさんあり、知れば知るほどその魅力に引き込まれました。また、各蔵の「雄町」で造ったお酒を試飲したところ、同じ酒米を使用しているにもかかわらず、蔵ごとの特徴がはっきりと伝わり、蔵の思いを乗せやすい酒米だと感じました。
栽培の難しさから生産量が減り”幻の酒米”になった「雄町」ですが、魅力を知った「オマチスト」が増えることで、"岡山の誇り"となり、また次の世代へと繋がっていくことでしょう。
今後の岡山地酒イベント情報
岡山県では、今後も同会場を使ったざまざまな地酒イベントを企画しています。その一部をご紹介します。
『備前焼で愉しむ雄町米の地酒BAR』
- 日程:2017年1月12日(木)・13日(金)
- 時間:各日17:00〜20:30(ラストオーダー20:00)
- 場所:とっとり・おかやま新橋館 2F 催事スペース
- 料金:チケット制(1,000円、200円×5枚)
- 特典:備前焼のおちょこ(両日通じて先着500名限定)
- お問い合わせ:岡山県備前県民局地域づくり推進課
- 電話:086-233-9880
『美作国春のうまいものフェア』(地酒BAR同時開催)
- 日程:2017年3月11日(土)・12日(日)
- 場所:とっとり・おかやま新橋館 2F 催事スペース
- 内容:岡山県美作地域の特産品の販売、試食を行うほか、蔵元の地酒を無料で飲み比べ
- お問い合わせ:岡山県美作県民局地域づくり推進課
- 電話:0868-23-1259
◎「とっとり・おかやま新橋館」
- 住所:東京都港区新橋一丁目11番7号 新橋センタープレイス1F/2F
「1F アンテナショップ」
- 営業時間:10:00~21:00
- TEL:03-6280-6474
- FAX:03-6228-5066
「2F ビストロカフェ ももてなし家」
- 営業時間:11:00~22:00(ラストオーダー21:00)
- TEL:03-6280-6475
- FAX:03-6280-6101
(取材・文/内記 朋冶)